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  • 執筆者の写真大和商業研究所

石門心学風土記 第35回 信濃の国 時中舎

時中舎を開祖の「自謙」さま

 信濃の国に心学舎は十二舎あった。摂津・播磨に次いで舎数は国別で三番目に多い。その理由は、植松自謙(現富士見町、1750~1810)、中村習輔(現千曲市、1731~1816)の二人の秀逸な講師が出たからである。自謙は、中澤道二の跡を継いで、江戸・参前舎の第二代舎主に抜擢されるわけであるから、その能力が推し量れる。信濃・上野・甲斐などで十三舎の設立に貢献している。生家のある瀬沢新田では今も「自謙さま」「心学さま」と親しまれている。

 諏訪郡富士見町は、文字通り富士の見える美しい町で、田園・里山に囲まれる地だ。

現在まで毎年の行事を続ける

 時中舎の特筆すべき点は、舎の遺品を自治区の人々が今日まで守り続け、時中舎運営委員会が毎年二月に舎の行事を行っていることだ。

 舎の年譜を参照すると、戦時中に富士見村は国策で満州に分村を建設。松目からも入植し、現地に松目区を作り、「舎号」「安心自得の詞」「断書」「覚書」を地元から長老が書写し、区長が「氏神」とともに持参し、現地で活発な心学活動を行ったとある。また戦後は、復員した青年がいち早く郷土の復興に取組み、時中舎を社会教育活動に位置づけ、社会・人文・自然科学等の多方面に渡り講座を取り入れた。昭和四十年(1965年)には村の有形文化財に舎所有の「舎号」「自謙肖像」「みているぞ、安心自得」「断書、覚書」「あるべきよう」の五軸が指定された。平成二十一年(2009年)には開講二百年祭を開催し、参前舎小山舎主を招いている。

 平成三十年(2018年)の行事に、郷土史家の名取昇一氏のお導きで私も参加した。会場の公民館に数十名の自治会メンバーが続々と参集し、会場に掛けられた舎のお軸を閲覧する。講師は地元在住の長野県副知事の中島恵理氏。演題は「自然を守り育む 富士見の地域づくり」。舎の行事は今は心学の講話に特化せず、社会教育に関する学びを積み重ねているようだ。

地元、本郷小学校のHPには次のように載っている。「かつて本郷各地には『時中舎』と呼ばれる生涯学習の場があって、遠くから文化人・知識人を招いて定期的に学習会が開かれており、今も知的・文化的基盤のレベルが高い地域です。不撓不屈の精神を持ち、人間性豊かな教えが、脈々と受け継がれてきています。」

富士の見えるこの地に心学精神が脈々と流れ、いまも学び続ける姿に、日本精神の原点を見る思いがした。この町の人々と、全国の心学信奉者達が語り合う機会を持ちたいと思った。

写真は、「慎独」(中澤道二)、「堪忍」(手島堵庵)。



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